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旅行が好きなアラサー会社員のブログ。営業時間や価格などは旅行当時のものです。

9/25文学フリマ大阪で無職エッセイ本を出します


お久しぶりです。

 

9月25日の文学フリマ大阪で、今年3月~現在までの無職期間にエンジョイしてきたことをまとめたエッセイ本『華のお暇』を出品します。そう、無職になりました。

第十回文学フリマ大阪(2022/09/25) | 文学フリマ

ブース番号も決まりました!

I-42 (2F B・Cホール)です。

 

本は同日からBOOTHでも通販予定です。

 

dressofsindy.booth.pm

 

ページ数:168ページ(約62,000文字)
値段:600円


9/25の文学フリマ大阪で頒布&BOOTHで匿名通販予定です。

 

目次
・まえがき …………6
・ 劇場版名探偵コナン『ハロウィンの花嫁』世界最速上映 …………8
・ コナン聖地巡礼の東京旅行 …………12
・ 怪盗キッドが盗んだ宝石を見る …………23
・ ブックホテルに泊まる …………28
・ 「三河湾にある佐久島だ!」に行く …………37
・ 探偵事務所の面接を受ける …………57
・ 『芦屋のヒマワリ』を見に行く …………71
・ 同人誌を作る …………77
・ 同人誌を頒布する 〜通販編〜 …………84
・ 同人誌を頒布する 〜イベント編〜 …………87
・ プラネタリウムを目指し、岡山へ …………91
・ 鳥取でコナン尽くしの旅 …………97
・ 関ジャニ∞と過ごす令和四年、夏 ~18祭~ …………108
・ 働かざるものが食べたおやつ …………131
・ 書を読んで、家にいよう …………144
・ エンタメとイベントとそのほかの趣味と …………155
・ あとがき …………166

 

 

 

この中から試し読みとして、

三河湾にある佐久島だ!」に行く

を掲載しておきます。

 

 

 名古屋のブックホテルをチェックアウトしたあと、三河湾佐久島へ向かった。

 ここはコナンの映画『天空の難破船』で飛行船から投げ出された怪盗キッドとコナンが着陸した島。いつか行ってみたいと思いながらも、なかなか一歩を踏み出せずにいた場所だった。

 もともとは友人と約束をしていたのだが、事情があり行けなくなった。次いつ愛知に来るかもわからないので、申し訳ないが私一人で行かせてもらうことにした。

 伏見から名古屋へ出て、名鉄に乗り約一時間。電車に乗っている間に雨が降り出してきた。私は自分の運の悪さを呪った。青空の元で映画の舞台となった場所の写真を撮りたいと思っていたので、もう途中で引き返そうかと思った。

 しかし、ここで引き返したら次に佐久島へ行こうという気になるのはいつだろうか、と考え直し、電車に乗り続けることにした。前日、間に合わせではあるけれどかわいいグレーのサングラスまで買ったのに、出番はないかもな……と思いながら。スリーコインズで千円出した勇気を返してくれ。

 西尾駅に到着したらそこからバスに乗り、一色さかな広場まで約三十分。

 佐久島が観光地だと知らなかった私は、この一色さかな広場が多くの家族連れで賑わっていることに驚いた。市場で売られていたパックの寿司を買い、楽しそうな人々をぼーっと見ながら寿司を食べた。ちなみにこの時の心境は別に卑屈になっているわけではなく、ただただ「もうすぐあの島に行けるのか、楽しみだなぁ」と、ぼーっとしていた。一人旅には慣れているので、友人がいたらもっと楽しいと思うことはあっても、寂しいとかは特にない。そんな感じで、余裕をこいて寿司を頬張っていた。

 そこから十五分ほどフェリーに乗って佐久島へ。思いのほかぎゅうぎゅう詰めで、佐久島ってそんなに人気スポットなんだ、と思った。

 四人掛けの椅子のうち、年配女性三人グループの隣が一席空いていたので座らせてもらい、音楽を聴きながらぼーっと過ごす。三人の女性越しに見える窓の外は曇天で、窓には雨粒がたくさんついていた。

 ところが、到着した西港に降り立つと、雲はまだあるが雨は止んでいた。

 私は先ほど自分にかけた呪いをいともたやすく解いて、己の強運に感謝した。秒で手のひらを返す。

 しばらく経つと太陽も出てきて、サングラスは文字通り日の目を見た。やったね!

 港のそばにあったレンタサイクルで自転車を借り、帰りのフェリーの時間に合わせてオススメのルートを教えてもらった。どうやら二時間もあれば島の外側半分くらいは回れるようだ。

 私は教えてもらった通りにまずは一番近い黒壁集落を目指した。坂道を上がり細い路地を進んでいくと、その名の通り、黒い壁の家が集まっていた。なんでも潮風から家を守るためにコールタールで塗られているため黒いらしい。『三河湾の黒真珠』とも呼ばれている。

 ここでコナンおたくは軽率に沸いた。

 黒真珠。それは『名探偵コナン』十六巻で怪盗キッドが初登場したときに獲物とした宝石である。しかも『まじっく快斗』四巻にはそのときの宝石『漆黒の星(ブラックスター)』と題した、工藤新一と怪盗キッドの初対決も収録されている。

 もしかして『天空の難破船』の舞台にこの島が選ばれたのは、その由来があったからなのではないか!?

 真偽のほどはわかりませんが、オフィシャルのソースをご存知の方はぜひ、奥付のツイッターかメールアドレスまでご連絡ください。

 

 突然ですが、ここからは虫の話がたくさん出ますので、苦手な方は四七ページの「虫の話はここで終わり」の行まで読み飛ばすことをオススメします。

 ちなみに虫耐性のない私が自然の洗礼を受けて慌てふためいているだけで、佐久島に罪はありません。佐久島はいい所です。

 

 この黒壁集落を散策しているとき、道端に赤いものが落ちているのが目に入った。

 なんだろう、と目を凝らして驚いた。何だと思いますか。

 正解は、エビかザリガニです。

 私は誰もいない道で静かに「ヒッ」と悲鳴を上げた。

「エビかザリガニ」と書いたのは、赤い細長い甲殻類だということはわかったが、驚きすぎて直視できなかったからだ。

 よく考えればエビでもザリガニでも怖い生き物ではないはずなのに、大阪市育ちで自然とは縁が遠かった私はかなり面食らった。ザリガニは幼稚園の水槽の中でしか見たことがない。

 まさか、集落の中で野生のエビ(かザリガニ)を見るなんて思いもしないじゃないですか。

 島だからか? 海が近いとこんな坂の上まで上がって来るのか? と初めての衝撃に戸惑いながら、ブレーキをかけるたびにキィーと金切声を上げる自転車で集落を通り抜けた。

 その直後、漕いでいる自転車のタイヤのそばに、おもちゃが転がっているのが見えた。

 ――と思ったら、鮮やかな黄緑色をしたシリコン製のムカデのおもちゃみたいな、脚がたくさんある虫だった。長さも幅も、人差し指くらいのサイズはあった。見たことがない虫なので名前は知らない。ちなみにムカデもどんな虫かよくわかっていません。

 今度は静かじゃない悲鳴を上げた。幸い、周りに人はいなかった。

 ペダルから足を下ろせなくなってしまった。足を下ろしたとき、あの虫を踏んづけてしまったら……という想像が止まらなくなってしまったのだ。

 私はなるべく地面に足をつかないように、坂を下って海沿いを目指した。

 目的地は『天空の難破船』に登場した『おひるねハウス』だ。海岸にあるオブジェで、大きな木の箱のなかに九つの部屋がある、カプセルホテルみたいなオブジェである。

 ここへ行くには、草の生い茂った細道を通らなければならなかった。絶対に虫がいるに決まっている。

 先ほどからペダルに足を載せたまま下ろすことができず、スピードを緩めるべきところでもなんとかブレーキをかけつつ進み続けた。昔『ザ!鉄腕!DASH!!』でやっていた企画みたいだな、と思った。

 ようやく辿りついた『おひるねハウス』は映画で見たものそのもので、私はテンションを取り戻した。

 先に到着していた家族連れが撮影し終えるのを待ち、誰もいなくなったところでその写真を撮った。

 よし、ここで怪盗キッドのアクリルキーホルダーを出して、一緒に写真に収めよう。

 そう思ったとき、私の次に別の家族連れがやってきた。

 さすがに、同年代であろう母親と小さな子供の前で、大人が一人で怪盗キッドのキーホルダーを掲げる度胸はなかった。

 私は地図を確認するフリをしてその場にとどまり、「なんであの人は写真撮り終わったのにずっとここにいるんだろう」とか思われてそうだな……と不安に思いつつ、彼らの撮影が終わるのを待った。

 そして家族連れが去ったあと、ようやく怪盗キッドのキーホルダーの写真を撮影することができた。満足。

 さあ、来たときと同じ、草むらに囲まれた細道を戻らねばならない。

 またペダルからなるべく足を下ろさないように進み、今度はタイルアートのある場所へと向かった。

 その途中、ヤギがいる小屋があった。『天空の難破船』で怪盗キッドが戯れていたヤギです!!(急ブレーキをかけて自転車を止める絵文字)

 私はフェンス越しにヤギに近づいて、私も戯れたい、と思った。

 しかし少し離れたところにいたので手が届かない。

 何を考えたか、「ちょっと頭撫でさせてくれへん?」と人間の言葉で話しかけた。

 するとその言葉が通じたのか、ヤギはフェンスに頭を擦り付け、指が届くようにしてくれた。

 そんなことある!? と驚きながらも、隙間から差し込んだ指先でその頭を少し撫でた。ヤギの毛が意外と硬いことを知った。

 タイルアートの写真も撮影し、今度は海岸へ。自転車で海岸沿いの道路を走り抜けると、すっかり晴れた空と潮の匂いが心地よかった。

 海を見るのは久しぶりだ。自転車を降り、手で押しながら、海岸へ続く道を歩いた。

 そう。この瞬間、私は浮かれて忘れていたのである。先ほどまで感じていた「自転車を降りるのが怖い」という気持ちを。

 それを思い出したのは、右手で押している自転車の向こう側に立っているコンクリートブロックの上で、何かがうごめいた時だった。

 黒っぽいコンクリートのまだら模様が、動いたのだ。それもひとつではない。あちこちで、何かが動いた。

 え? と思って目を凝らすと、その正体がわかって私はまた悲鳴を上げた。

 平べったくて灰色っぽい、ゴキブリみたいな動きだけど見たことのない虫だった。

 まるで『となりのトトロ』でマックロクロスケがワサ~~ッと逃げていくシーンのように、私が動くたび、ざわめきが聞こえそうなほど多くの虫が逃げ出すのだ。

 海、怖い!

 私はそれ以上先へ進めず、来た道を引き返した。

 こわい! 海こわい! やっぱり一人で来るんじゃなかった! 友達が来られるときに一緒に来ればよかった!

 自転車を走らせ、脳裏にこびりついた虫のビジュアルを必死で振り払った。

 しばらくすると、海の上まで続く桟橋が見えてきた。いくつも曲がり角がある。ポケモンの世界に出てくる、つりびとが勝負を仕掛けてきそうな橋だった。ゲームボーイ世代のポケモンの話をしています。

 私はまた全てを忘れた。

 あの桟橋の先まで進んで、海の真ん中まで行ってみたい。

 自転車を降り、誰もいない桟橋を一人で自転車を押しながら進んだ。

 勘のいい方ならお気づきでしょうが、私はまたまた悲鳴を上げた。

 今度は足元で、またあの謎の平べったい虫がワサ~~ッと散り散りに逃げたのだ。

 人のいない、絶好の日向ぼっこスポットだったのかもしれない。一歩踏み出せば、また奥にいる虫が逃げていく。そんな道がずっと先まで続いている。

 あ――……これは、無理だ。

 私は道半ばどころか四分の一も進めていないであろう地点で、踵を返した。

 先端まで行くのは諦めよう。残りの道のり全てに這いつくばるあの虫を散らして進まなければならないなんて、どう考えても無理だ。

 しばらくすると、海岸からこちらへ向かって、大学生くらいの男の子グループがやって来た。そして私とすれ違ったあと、彼らのうちの一人が「あれ? この先ってもう行けないのかな?」と不思議そうに発したのが聞こえてきた。

 君たちは私が虫を追い払った道を歩いて来たから知らないだろうけど、ここから先は謎の虫だらけだぞ……と思いながら、彼らの健闘を祈った。

 そして同時に、友達と来ていたら私はかなり足を引っ張っていたかもしれないな……とも思った。

 翌日この友人と会ったときに教えてもらったのだが、例の虫は「フナムシ」というらしく、別名「海のゴキブリ」と呼ばれているらしい。やっぱりな。

 

 虫の話はここで終わりです。

 

 そのあとは東港のそばにある橋を渡って『おひるねハウス』の色違いみたいなスポット『イーストハウス』を通り過ぎ、大島という別の島を目指した。名前は大島だが、佐久島の方が断然大きい。

 梅園や『佐久島のお庭』という場所があったらしい。

 あったらしいんです。

 目指したのに「らしい」で終わっているのは、またここで先へ進めず引き返して来たからである。

 その島には、視線の先に誰も人がいなかった。もしかしたらいたのかもしれないが、見える範囲にはいなかった。周りには草木が生い茂っている。島の入り口に立っているカフェは休業日なのか閉まっていた。

 私は立ちすくんだ。

 Q:この、人がいる気配のない島を一人で巡るのか?

 A:無理です。

 自問即自答の末、来た道へ戻った。

 なのでその島がどんな場所だったのかはわからない。

 気を取り直そうとカフェに入り、クリームソーダを注文。暑いので水分補給も兼ねてアイスを食べたかった。しかし、出てきたのは想像と違うものだった。てっきりメロンソーダにアイスが載っているものかと思いきや、なんとクリームソーダ味の炭酸飲料だったのだ。まぁ確認しなかった私も私だし……と己を納得させながら、よく冷えた「これじゃない感」味のドリンクをぐびぐび飲んだ。休憩にはなったのでよしとしよう。

 しばらくカフェで涼んで、今度は島の端に位置する「新谷海岸」という浜へ向かう。紫色の砂浜が見られるらしい。

 いや、まさかそんな色に見えることある? と半信半疑な気持ちを抑えつつ、私は自転車を漕いだ。

 そして砂浜に繋がる道の前へ辿りついたとき、息を呑んで立ち尽くした。

 砂浜へ行くには、雑木林に一本伸びている細い道を通って行く必要があった。

 その道はまるでトトロの世界のように左右も上も草木で覆われていて、トンネルのような薄暗い小道だった。

 もちろん舗装されていないため自転車では入れず、歩いて行くしかない。

 人がいる気配はない。

 人がやっとすれ違えるくらいの細い自然のトンネルは、奥まで目を凝らしても砂浜までは見えず、どこまで続いているのかわからない。

 一人で、ここを、歩くのか?

 誰もいない細い山道を、自然慣れしていない都会っ子がたった一人で?

 戻ろうかな、と思った。

 だって別に砂浜を見なくても死なないし、海ならさっきも見たし。

 だけど、紫の砂浜って、どんなところなんだろう。

 Googleマップで所要時間を調べると、約五分と答えが出た。

 五分か……それなら、阪急梅田駅からJR大阪駅までくらいの距離だな……

 そう考えると行ける気はする。

 私は駐輪場に自転車を止めて、一歩を踏み出した。

 踏み出してすぐ「やっぱやめようかな」と思った。

 なにしろ、先ほどまで雨が降っていたのである。足元はぬかるみ、気を付けていないと、いや、気を付けていても靴底がずるりと滑る。慌てて足をつくと泥が跳ねてスカートに飛ぶ。こんな道を歩くだなんて思っていなかったオフホワイトのパンプスがあっという間に泥まみれになった。

 それでもいったんは覚悟を決めたものだし、好奇心を裏切ることもできず、私は進み続けた。

 こけたら終わりだ。白いトップスにラベンダー色のスカート。こんな格好で泥にダイブしてしまったら、帰りのフェリーにも電車にも乗れたもんじゃない。

 一歩一歩注意深く進んで行く私の耳には、左右の木々の間から鳥だか虫だかわからない鳴き声やガサガサとした音がたくさん聞こえてくる。

 めっっっちゃくちゃこわい。

 ここで林に倒れ込んで怪我をしても、人通りがないため誰にも助けてもらえない。何が潜んでいるかもわからない。そういえば、レンタサイクルの事務所の近くに「ヘビ注意」みたいな張り紙があった。ヘビ、出たらどうしよう。

 振り返ると、入り口はすっかり遠くなっていた。

 もう真ん中くらいまで来たのだろうか。

 Googleマップで位置情報を確認したかったが、こけないようにするので精一杯のドロドロデコボコ道で歩きスマホなんてできるはずもない。

 四方八方に怯えながら少しずつ進んでいると、向こう側から人がやってくるのがわかった。

 よかった! 一人じゃなかった!

 会釈しつつご夫婦と思しきお二人とすれ違う。その直後だった。

「ぎゃあ!」

 通り過ぎたご夫婦が振り返るほどの悲鳴を上げた。

 水溜まりを避けて足を下ろした地面に、真っ赤なカニがいたのである。しかも手のひらくらいの大きさだ。

 薄暗い林に突如大きな真っ赤なカニが出没するという盛大な違和感をくらって、私の心臓はバクバクと早鐘を打った。

 ご夫婦は「なにごと?」と不思議そうな様子で去っていく。カニのことなんて気にも留めていないようだった。

 こっちのほうが「なにごと?」と問いたい。なぜこんな場所でカニを見てそんなに平気でいられるのか。

 まあ、林と言ってもよく考えればここは島だし、海が近いし、カニが上がって来ることもあるのだろう。そう納得して、私はさらに奥へと進んだ。

 進んだが、進んでも進んでも目的地に着く気配はない。

 徒歩五分だって? 嘘では? 梅田から心斎橋まで歩くほうがよっぽど楽やろ? と疑い始めたころ、足元が下り坂になっていることに気がついた。

 滑らないように気をつけつつ、おそらくもう少しで着くはずだと自分を励ましながら歩みを進める。

 ようやく道の先に明るい砂浜が見えたときは、安堵で泣きそうだった。

 わあ~! これが紫色の砂浜かあ~……?

 プライベートビーチのような狭い砂浜が、暗い林を抜けた先にあった。ちなみにプライベートビーチなんて行ったことはない。あくまでイメージです。

 しかし、特段「紫色」といった雰囲気は感じられない。空がうっすら曇っているせいか、私の心が曇っているせいかもしれない。灰色に見える。

 そもそも、砂浜がそんなに驚くほど紫色をしているわけでもないか、と冷静になりながら頑張ってたどり着いた記念として写真に収め、来た道を戻ることにした。

 戻るのです。ここまで約一七〇〇文字を費やして大変さを語ってきた道を!

 私はまた気合を入れ直して、ぬかるんだ道を歩き始めた。

 行きとアングルが変わったからか、帰りには真っ赤なカニを五匹以上は見た。そのたびに悲鳴を上げつつ、駐輪場を目指してひたすら歩いて行く。

 そして、半ばまで歩いたところで気づいたのだ。

 私、サングラスしてたわ。

 スリーコインズで間に合わせで買ったグレーのサングラスを外してみると、薄暗いと思っていた雑木林の緑が色鮮やかに見えた。

 そりゃ砂浜も灰色に見えますわ。

 もしかして、サングラスを外せば紫色に見えたのではないだろうか。

 そう思って振り返ったが、道の先はもうわからなくなっていた。

 さすがにこの道をまた砂浜へ戻って帰って来る元気は残っていない。ここから駐輪場へ出るので精一杯だ。

 苦労してたどり着いたのに、何やってんだ私は……と悔しい思いを胸に、なんとか一度もこけることなく出口へ到着した。

 というわけで、紫色の砂浜は、本当は紫色をしていたのかもしれません。

 確かめたい方はぜひ頑張ってこの自然のトンネルを抜けて行ってみてください。

 

 自転車に乗り、西港へ戻る。

 この島のありとあらゆる場所でびびり尽くした私に、怖いものなどもうなかった。

 颯爽と海沿いを走り抜け、レンタサイクルの事務所へ到着。

 そこで水道を借りてドロッドロのパンプスの外側を洗わせてもらった。ちなみに、出発時にはここで虫除けスプレーまでお借りした。

 さて、いよいよ帰りのフェリーがやってくる頃だ。

 港へ向かって歩いていると、私の目に「『三河湾の黒真珠』佐久島」という看板が飛び込んできた。『漆黒の星(ブラックスター)』だ!

 私はコソコソと辺りを見回し、人がいないことを確認して鞄の中から例のブツを取り出した。そう、怪盗キッドのアクリルキーホルダーである。

 先ほど『おひるねハウス』で撮影したときは人目につかないようかなり気を付けていたにもかかわらず、この文言と一緒にキッド様の写真を撮っちゃおう~と浮かれ気分でキーホルダーを掲げ、完全に気を抜いていた。

 そんな私の背後から、若い女の子の声が聞こえる。

「あ、怪盗キッド

 写真を撮ることに夢中になっていた私は、背後から近づいてくる学生のグループに気づかなかったのだ。

 

 

以下、本に載せるかは未定ですが写真です。

(キャラクターは特に権利関係心配なので載せないと思う)

 

おひるねハウスと、途中で引き返した桟橋。

 

カニが出現する雑木林

 

紫か……?

 

ピントを合わせることに夢中になっていた私